「あっ鳥だ」私は空を見上げた。そして、その一瞬あと、すぐに思い直した。「いや、あれは鳥じゃない。天使(鳥人間)だわ」。現在、鳥人間となって空を飛ぶには二つの方法がある。一つは機械の羽根を装着する方法。そしてもう一つは、羽根の種子(wing seed)を肉体に直接、植え付ける方法だ。私は自分の羽根で空を飛ぶ決心をした。   病院でシードの植え付け手術を受けた。シードは21日間で肩甲骨に根をはり羽化する。張りつめた皮膚の下で少しづつ成長する羽根。それは外から見ると皮下に卵でもあるかのようにふくらんでいた。急激に引き伸ばされた皮膚は緊張のため少し痛い。そして私は、背中に自分自身の羽根を感じながら、今日も空を飛ぶ日を夢想している。   13日目、左背部に激痛が走る。痛い。赤くなっている。熱もあるようだ。まさかと思って病院に検診に行った。Infection(細菌感染)だった。内容物は膿瘍となり羽根は崩れて流れた。しかたなく、片翼はあきらめて切断した。その日、疼痛よりも悔しくて涙が流れた。  21日目。羽化の日がやってきた。残った右翼に緊張がかかり、痛みが走る。薄くなった皮膚は内側から’パツリ’と破れ、羽根が生まれた。   3ヶ月後。初めての飛行の日が来た。ダメになった左側には機械の羽根を付けた。「やっとこの時が来たんだ」私は決心して羽ばたいた。   「飛べた、飛べたよ」何だか涙が出てきた。私はこの日を一生忘れないだろうと思った。